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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

4綴り 間違いだらけの世界

 

短編。

スマホー推奨。

 

 

 

 

 

4綴り ケーブルの中で束ねられた夢

 

 両親が死んだ。

 あっけなく俺ひとりを置いて、突然いなくなってしまった。

 

 

 朝、自室を出て、まず母を呼ぶ。

 そして、静けさにハッとする。

 仕事の執筆をしている合間に、父の笑い声が聞こえたような気がしてハッとする。

 


 それが、1年だったか2年だったか思い出せないくらい前で、キッチンに積もる埃だけが時間を数えていた。

 時間が止まった家で俺は一人、暮らしている。

 

 

 俺は両親が好きだった。

 両親は俺に沢山の愛をくれたと思う。

 いつも微笑んでくれる優しい母、良いこと悪いことを判断してくれる正しい父。絵に書いたような幸せな生活。


 俺が小説の応募で大賞をとり、小説家になったことを知って、両親が一番喜んでくれていた。俺は甘えていたと思う。衣食住を両親に任せっきりであったからだ。おかげで、執筆に打ち込むことができ、申し分ない程の仕事にありつけた。


 さて、今から親孝行をしようと思った矢先だった。

 交通事故で二人共死んだ。あっけなく死んだ。


 帰ってきた二人は木の箱に入れられ、微笑んでいるのか、悲しんでいるのかわからない表情をしていた。まるで作り物のようで、頬に触れると冷たくて……。

 親戚のおばさんに「よくできたつくりものですね」と言うと、おばさんは泣き崩れ、そうしてやっと、ああ、本当に死んでしまったんだなと理解できた。

 淡々とすぎる葬儀をこなし、気がついたら終わっていた。

 


 悲しみを抱えて生活してきた。

 両親が恋しくて、俺は未だに流し台に置かれた三つのマグカップを洗えないでいる。

 この家には両親のにおいが、まだ、漂っているから。

 洗ってしまっては記憶も流れてしまいそうで怖かった。

 

 

 ただ、最近は両親の顔も薄れかけている。

 それが悲しくて、寂しくて、自分を責めてしまいそうで。

 

 

 たまに居るはずのない両親と会話をする。脳内に、まだ、母と父が残っているから。こんなふうに話してくれるだろう、笑ってくれるだろう。

 顔にモヤはかかるけれど、幾分気はまぎれた。

 

 

 けれど、それでも最近は虚しくなって泣いてしまう。

 

 

 ある日、父のパソコンに触れた。

 フォルダで、写真を眺めているとメール受信の音が鳴る。

 件名は『ブログの更新が止まっているようですが、お元気ですか?』だ。

 

 ブログ……? 父がブログをやっていたなんて知らなかった。履歴にもなかったし、お気に入りにも登録していなかった。

 俺はそのメール開く。

 どうやらブログにコメントがくると自動的にメールが来るようになっていたようだ。文末にはブログ元のURLが載っていた。

 

 事故の前日にブログは更新されている。

 

 

 

 

題名 許して欲しい


私は、間違っていた。

優しくすることが愛だと思い、今までそう息子に接してきた。

結果、家から出ない子供に育ててしまった。

間違いを正そうにも、もう遅く、ずいぶん大きくなってしまった。

私は、覚悟して父親になったと思う。

だが、覚悟が足らなかったのだろうか。

一度も息子を叱ったことがない。

 

彼が初めて生まれたとき、私は不思議な感情を抱いた。

こんな小さな存在が人間になるのかと感動した。

それと同時に恐ろしかった。

 


私の言動がみはられている。

私の言動でこの子は育つ。


 

常に監視されているかのような、息苦しい日々を送った。

 

私の気持ちも知らず、すくすくと彼は成長し、私と同じ生き物になった。

彼はいつも私に向かって「父さんは正しい」と言う。


その言葉が怖かった。

その言葉が私を追い詰めた。

 

彼は安易に私を「正しい」という。

息子よ、その「正しい」は、いつも涼しい顔をしながらひねり出した答えなのだよ。

私は君を「正しい」息子に育てられただろうか?

 

 

息子よ、

私はね、

疲れたんだよ。

 

 

やはり、私は親になる覚悟が足らなかったんだと思う。

人を愛することはたやすくて、子供を作ることもたやすいのに、

愛を態度で示すことは難しいんだ。

 

私は、それを踏まえたうえで綾子と結婚し、君を授かったんだと思う。

でも、覚悟が足らなかった。

人一人を育てるという恐ろしさにたじろいだ。

 

私は、息子を愛していたよ。

でも愛しすぎてしまったんだ。

 

 

いつか私たちは、息子を残して死ぬだろう。

 

 

遅かれ早かれ、私たちの方が先に死ぬ。

寿命であったり、難病であったり、突然事故で死ぬかもしれない。

その時に、彼は「正しい人」でいられるだろうか?

私たちなしで、生きていけるだろうか。

私たちは覚悟が足らなかった。

きっと彼は「間違って」しまうだろう。

その時に「正して」あげられるのはきっと私たちなのだ。

彼は私たちが死ぬまでに何度「間違う」だろう。

私たちはあと何度「正せる」だろうか。

 

気づくのが遅すぎた。

いいや今からでも間に合うだろうか?

明日から綾子と二人、はじめて息子と向きあいたい。

 

 

 

 

 

終わり