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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

5綴り 彼女に一方的に別れを告げられた

短編

スマホ推奨。

 

 

 

5綴り 彼女に一方的に別れを告げられた

 

 

 

 先輩からLINEが入った。

「明日、16時、喫茶JUNKにて」

 素っ気ないメッセージ。

 

 僕は通知に驚いて、風呂上がりにも関わらず、飲んでいたコーラを服にこぼしてしまった。


「最悪」


 言葉とは裏腹に僕は喜んでいた。

 3ヶ月ぶりに先輩に会える。

 僕は鼻歌を歌いながら、もう一度風呂に入った。

 

 

 先輩は、ひとつ年上の彼女だ。

 先輩の卒業式の前日に人気のない桜の木の下で告白をした。一度は断られたけれど、どうしても諦めきれなかった僕は先輩の白い手を握り、気持ちに応えてくれるまではなさない覚悟で言った。

 

 

「お願いします。僕とお付き合いしてください。僕、先輩好みの男になります。先輩が気に入らないところがあれば直します。絶対に後悔させません! 軽い気持ちじゃないんです。ずっと……入学した時に、先輩が壇上で挨拶した時から一目惚れしてて……」

 

 

 顔をあげると先輩は困った顔をしていた。黒く長い髪にセーラー服。今にも僕の手をすり抜けてしまいそうな儚さがそこにある。

 

「……失望してしまうかもしれないよ?」

 

 桜色の唇がやっと開いたと思うと、僕は言葉の意味を理解できなかった。

 

「え? 先輩それはどう言う意味ですか?」

 

「君が思うような女じゃなくて、失望してしまうかもしれない。私は、無愛想だし、何を考えているかわからないと人によく言われる。宇宙人みたいだって。それでも、いいのなら……」

 

 そういうと先輩は黙り、うつむいた。耳まで真っ赤になっている。

 

「いいです! いいです! 絶対失望しません! そんな、ちょっと不思議っぽいところも好きで、大好きなんです……!」

 

 頭が沸騰するように熱く、僕はその場で叫びだしそうだった。先輩に抱きついてしまいたいくらい嬉しかったけれど、僕にそれほどの度胸はない。

 

 次の日、先輩は卒業した。

 大学に進学したらしいけれど、僕に大学名を教えてくれない。それどころか、僕は先輩の家すら知らなかった。知っているのはLINEだけ。それも、連絡をしても中々返ってこず、会いたいといっても何かに理由をつけて会ってはくれない。

ただ、三ヶ月に一度ほど、要件だけの素っ気ない時間と場所だけを知らせる連絡が先輩から来るのだ。

 

 先輩は僕と会うたびに独り言のように言う。

「ねぇ、誰かの記憶に残るのが怖いと思うの。なのに、私のこと知ってほしいって思うの」

 そんな風に先輩は突然、謎めいた、そして答えもないような言葉を切り出すのだ。その度に僕は、先輩が何かに傷ついているのだろうかと心配し、僕は先輩の味方です、と返した。先輩は、少し人とは違うけれど、自分なりの言葉で僕に『私はこんな人間です』と伝えようとしてくれていたんだと思う。

 だから、けして僕は先輩の言葉をないがしろにしなかった。

 


  先輩はいつも苦しそうだった。

 いつも悲しそうな目をしている。

 僕はその、先輩の悲しそうな顔が好きだった。

 今にも消えてしまいそうな儚さが愛おしかった。

 

 

 

 

 

 

 喫茶店につくと、先輩が指定した15分まえであるにもかかわらず先輩は先に到着して席に座っていた。最近では珍しい黒く長い髪に、遠目からみても先輩だとわかる。

 僕は店員に「知り合いが、中に」と伝えると先輩に小さく手を振り近づいた。

 先輩は大きめのグラスでアイスレモンティーを頼んでいた。

 

「お久しぶりです」

 

 僕が笑顔で先輩の向かいに座ると、先輩は微笑んだ。

 僕も先輩と同じものを頼み、しばらく特に会話をしなかった。僕は先輩を眺めているだけでも十分だったので特に苦痛も感じない。

 僕のアイスレモンティーがテーブルに置かれて、店員がさった後、先輩はゆっくりと口を開いた。

 

「ねぇ、恋人と死別すると悲しいのに、一方的に別れを告げられると怒りに変わるのは何故だろう……」

 

 まるでそれは答えのないなぞなぞのようだ。

 

「えっと……」

 

 答えられない僕を、先輩は悲しそうな顔で笑う。

 

「どちらもお別れなのにね。不思議だね」

「……ですね」

 

 あははと乾いた声で笑う僕をみて、先輩はゆっくりとした動作でストローをくわえて、レモンティーを一口飲んだ。

 

 

「あのね」

 

「私、君と別れようと思う」

 

 

 まるで、時間が止まったようで僕は先輩の言葉を理解できなかった。

 

「え?」

 

「別れようと思うの」

 

 

 先輩はオウムのように繰り返した。

 

 

「な……んで、ですか?」

 

 

 頭の中が真っ白で、先輩に問いかけているのに、どんな答えでも僕は受け入れられない気がしている。

 

 「気に入らないところがありましたか?」

「違う」

 

「他に好きな人でもできましたか?」

「違う」

 

 

「じゃあなんで……?」

 

 先輩は悲しそうな顔をした。

 ハンドバッグからお金を出し、立ち去ろうとする先輩の手をつかもうとする。

 だが、先輩は逃げてしまった。

 先輩が座っていたはずの席に小さな青い花のブーケが置かれていた。

 

 

 それからは、いくらLINEを送っても返事がない。既読もつかない。

 会いたくても大学はわからないし、家も知らないから会えるわけがない。

 

 

 ただ、風の噂で彼女が卒業後すぐに交通事故で亡くなったことをしった。



 真実は誰にもわからないが、彼女が残したであろう青い花が勿忘草と知って僕は未だに彼女に失望することは出来なかった。