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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

6綴り 私に似た人

 

 

短編。

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 過執して一話にまとめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 6綴り 私に似た人

 

 私はマンションの屋上に立っていた。冷たい秋の風は、制服のスカートをくぐり抜ける。まだ16時だというのに日は落ちて、肌寒い。私は学校を終えて、夕日が沈むまでずっと遠くを眺めていた。

 

 

 私は今から飛び降りるつもりだ。

 

 

 しかし、マンションから下を覗くとたじろいでしまい、結果的に私は夕日をずっと眺めていただけになる。『死ななければいいじゃない』と、それは真っ当な意見なのだが、気持ちの置き場が見つからず手持ち無沙汰になっていた。

 

 

 今日、年の離れた兄が結婚を前提にお付き合いしている女性を連れてくるという。私を猫可愛がりしていた兄が、誰かのモノになってしまうだなんてなんだか許せない。

 それも胸の中を曇らせる理由の一つだ。

 

 だが、もともと何度も死のうとは思っていた。

 両親の離婚、父の暴力、学校のいざこざ。

 兄だけが私の居場所だった。

 でも、それも今日でなくなってしまう。

 たったそれだけのことなのに、なんだか世界中が私の敵になったような気分になる。

 

「はぁ……」

 

 私は誰も聞いていないにもかかわらず、大げさなため息を漏らした。

 

「やめよ。やめよ。馬鹿らしい」

 

 今度は誰にも聞こえないように小声で言う。

 向き直ると背後に、知らない女性が立っていた。

 白いワンピースに黒く長い髪。

 死神が私を連れてきたとでも言うのだろうか。

 

「……」

 

 途端に私は首元まで真っ赤になった。

 今の一人芝居を見られていたかと思うと恥ずかしい。

 

 女性は機械のように小首をかしげると小さな口を開いた。

 

 

「死ぬの?」

 

 

「え?何をいって――」

 そのあとに訂正をしようと思った。だって私はまだ一言も死ぬだなんて言ってないし。

 

「死なないの?」

 私を無視するように女性は続けた。

 まるで私に死んでほしいみたいに。

 やっぱりこの不思議な感じ、私を連れに来た死神なのかも。

 けれど、あまりにも彼女が無表情で、失礼極まりなく感じた私は反抗するように吠えた。

 

 

「死ぬとか死なないとかなんなんですか? 私そんなこと一言も言ってないんですけど! そもそも貴方誰なんですか? ――見たところこのマンションの住人じゃなさそうですけど……まさか貴方も……」

 

 

 自殺希望者……? そう口走る前に私は自分の口を手で塞いだ。気持ちがいっぱいいっぱいなのだ。口を開くと思ったことが全て流れ落ちそうだった。

 

 

「未来から来た貴方だっていったらどうする?」

 女性はそう言うと口元をにやりと釣り上げる。

 

「え……?」

 

「私はこの日この時に自殺をする自分を止めに来たの。私が昔そうしてもらったように……」

 そういうと女性はどこか懐かしそうな顔をした。

 

「本当に?」

「ええ……」

 

 言われてみればどこはかとなく、鏡でみる自分に似ている気がする。

 そうか、私は助けられて、なんとか目の前にいる女性ほどには生きているんだなぁと思うとなんだか目頭が熱くなった。

 

 

 辛かった。今まで辛かった。

 

 家庭内暴力が日常的に行われる家で、怒鳴り声と叫び声の中で私は育った。喧嘩が始まると兄は私を抱きしめて、いつも耳を塞いでくれたっけ。

 離婚して、父と兄とで暮らすことになったけれど、父の暴力はいつも兄が止めてくれた。

 中学に上がって、些細なことでいじめにあって、誰にも頼れなかった。兄にも言えなくて、きっとこの苦しみがいつまでも続くんだって思ってた。

 そう考えると絶望的で。

 私の未来は真っ暗闇なんだと思った。

 

 

 でも違った。

 私、生きてくんだ。

 最低でも、この女性くらいの年まで……。

 

 

 そう思うと涙が溢れた。

 私は死なない。

 

 

 熱い涙が頬を伝う。

 女性が優しく私を抱きしめてくれた。

 

 

「今まで辛かったわね。苦しかったわね。大丈夫よ。きっと大丈夫」

 

 

 

 

 

 その時、屋上の扉が開いた。

 

「ミクさんこんなところにいたの? げ、みらい、お前なんで泣いてるの?」

 兄だった。

 

 

 

 兄の婚約者はミク(未来)というらしい。

 けして未来から来たわけではない。

 茶目っ気がすぎる兄の彼女だ。

 

 

 後日ミクさんに、なぜあのような嘘をついたのかと尋ねると

「お兄さんから妹とよく似ているって言われてたのよ~。家庭環境も複雑だし、学校も楽しくないみたいってよく漏らしてて~。屋上で見つけたときはピンときちゃった!」とキメ顔でそう言われてしまった。

 恥ずかしいところを見られた手前、私はミクさんに逆らうことはできなさそうだ。