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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

7綴り 結んで開く恋心

短編 物語

 

スマホ推奨

胸糞悪い恋愛を短編に。

 

 

 

 

7綴り 結んで開く恋心

 

 

 親友の結は、最近元気がない。

 女子高が休みな日曜日。

 あたしは、結のためにレモンケーキを焼いた。会う約束はしていない。顔をみて少し話をしたい。ケーキを渡すのは口実でもきっと喜んでくれるはず。

 

 

 あたしは結の親友だから、結のことはなんでも知りたい。

 

 

 

 ケーキは上手に焼けた。

 輪切りのレモンが結をきっと元気にしてくれる。

 袋は透明のシンプルな物を選び、きいろとおれんじのリボンで可愛くラッピングをする。きっと、喜んでくれるだろう。

 結が「かわいい」と言いながらリボンを解く姿を想像した。彼女は上目遣いをしながらあたしに言うだろう。「ね? たべていい?」

 想像するだけで自然に頬が緩む。

 

 

「いけない! はやくでなくちゃ」

 

 

 あたしは急いで家を出た。

 淡いクリーム色のワンピースにつばの広い真っ白な帽子をかぶり、あまりに急いで出たものだから、白いストラップシューズのストラップを止めながら外に出る。

 

 日差しが暑い。

 

 暑さに目がくらむ。

 

 

 ふと目を閉じたその時、タイミング悪く、曲がり角から飛び出してきた人とぶつかってしまった。

 頭と頭を強く打ったみたいでかなり痛い。

 うっすら目を開けるとそれは結で、そのあとすぐに、あたしは後ろに倒れ、コンクリートに頭をぶつけ意識を失ってしまった。

 

 

 大きな声で目を覚ました。

 

「ゆっこ! ゆっこ!」

 大きな声はあたしの名前を呼んでいる。

 

「ん~……」

 目を開けて、飛び込んできたのは見慣れた顔。

 私の顔だった。

 

「あ……、あたし?」

 あたしは間抜けな声を出した。

 その間抜けな声でさえ、いつものあたしの声ではなかった。



「私、結。私たち、中身だけ入れ替わっちゃったみたいなの……」




 そういうとあたしの顔をした結は悲しそうな顔をする。

「でも、私の中にゆっこが入ってよかった。ねぇ、お願いがあるの」

 結はそういうと、あたしの両手をギュッと握った。

 あたしの顔なのに、泣きそうな顔がすごく可愛い。

 

 

 

 あたしは状況を全く理解できないでいた。


 目の前に置かれたワイングラスの形をしたおしゃれなコップに注がれたアイスティーがめちゃくちゃ美味しいということしかわからない。

 

 知らない喫茶店、目の前には知らない綺麗な女の人。

 

 女の人はあたしを見ながらニコニコして、アルバムをめくりながら楽しそうに話している。

 あたしはただ、気のきかない「あはは」「そうだね」「うんうん」という言葉をならべた。



 結、あたしどうしたらいいの? 

 さっき言ってたことってどういうことなの?

 

 

 

 結は言った。

「私の代わりにあって欲しい人がいるの。その人に大好き、行かないでって行って欲しいの」

 あたしの顔をした結はボロボロ涙をこぼした。

 あたしはそれで結には好きな人がいて、その人と離れ離れになるから告白するものだと勝手に想像した。それなら最近元気がないことに納得できたからだ。

 あたしは詳しい事情も聞かずに受け入れた。

 

 

 でも、目の前にいるのは女の人。

 綺麗だけど、普通の女の人。おばさん……とまではいかないけれど、そんなに若くない。結は、この人のことが好きなの?

 

 

 あたしは女の人を、頭の先から爪の先、足の先まで見た。

 女の人はそんなあたしの視線に気づいて、苦笑する。


「ごめんね。今日で最後なのに、楽しくなかったね」

「あ、いえ、全然そんなことないっていうかー……」

 あたしは下手くそな作り笑いをした。

 


 

「結ちゃん、来月、来てくれるよね?」

「え……? あ、はい。多分」

 なんのことだかよくわからない。

 

 

「絶対に来てね。ブーケ、結ちゃんに絶対あげるから」

 女の人はそういうと少し鼻をすすった。



「本当にごめんね……。私みたいにおばさんは辛いね。こんな私のこと好きになってくれてありがとうね」

 とうとう泣いてしまった。

 

 

 なんなの? これ?

 

 

 

「私……結婚、したくない」

 嗚咽混じりに女の人はそう言った。

 

「同性だと……どうして結婚できないんだろうね」

 女の人はカバンからハンカチを取り出すと目元を軽く抑えた。

 

 

 え? マジでいってるの?

 

 


「ごめんね。こんなこと言って、結ちゃんをさらに困らせるだけだよね。私が勝手に結婚するのに、結ちゃんはあんなにも愛してくれたのに……」

 

 女性の言葉はあたしの中に全然入ってこなかった。

 ただ淡々と、涙とともに落ちる言葉に、あたしは呆然としていた。

 

 

 あたしは何も言えなかった。

 結に頼まれた「大好き」も「行かないで」も。

 いやむしろ、「大嫌い」、「消えちゃえ」って思った。

 同性愛なんて。同性愛なんて、気持ち悪い。

 

 

 店から出ると、女の人は泣き崩れるようにあたしに抱きついた。名残惜しそうに、何度もきつく、あたしを抱きしめる。キスをしようとする女の人を、押しのけた。

「もう、いかなきゃ」

 そう冷たく言い放つと、女の人は何度もあたしに謝った。

 

 

 女の人がいなくなって、公園に行くと泣きはらしたあたしの顔をした結がブランコに乗っていた。

 結はあたしを見つけると立ち上がる。

「どうだった?」

 あたしはありのままを伝えた。

 結は、泣いていた。

 

 

 あたしは、結のフリをして結の家に帰った。

 夜になり、結の匂いのするベッドに入る。

 

 

 嫌いだ。嫌いだ。

 気持ち悪い、同性愛なんて。

 

 二人、笑い合う写真を女の人はあたしに見せた。

 思い出を昨日のことのように楽しそうに話した。

 帰り際、ボロボロに泣きながらあたしを抱きしめていた。

 

 それなのに結婚するんだ?

 結のこと、あんなに好きなのに異性と結婚するんだ?


 そういう得体のしれないなにかをあたしはたまらなく気持ち悪いと思った。