貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

9綴り 裏切りの閃光②

 

 

①は下記

onisisino.hateblo.jp

続き。

 

 

 

 

9綴り 裏切りの閃光②

 

 

実は私の旦那が、浮気をしているみたいなんです

 

 彼女が両手でギュッとグラスを握り、熱で少し溶けた氷がカランと音を立てた。

 

「へー。もったいないわね。こんなに可愛い奥さんがいるのに! 不幸ものだわ~」

 私は大げさに言ってみせる。こういう女は同情して同調してほしいのだ。

 

「で? 何か証拠でも見つけちゃったってわけ?」

「会社の、携帯を……」

 

 そういうと彼女はお酒を一口飲んだ。

 

「見る気はなかったんです。あの人がお風呂に入っている時に、見慣れない古い携帯が置いてあって、普通になんだろう? って思って開いちゃったんです。そしたら女性の名前でメールがあって……」

 

 どうして携帯って見ちゃうのかしら。

 見たっていいことないのにね。

 

「やだ。それアウトなやつじゃない」

「受信されたメールは……普通のものなんです。あ、旦那は高校で教師をしていて、メールは生徒からでした。優しい文体の、日頃の感謝を綴った内容でした」


「ふーん。じゃあ、過去のメールに疑わしいモノでもあったわけ? 教師同士のメールとか?」


「いえ……、過去の受信フォルダも悪いとは思いつつみたんですけど、業務メールで。ただ、下書きに女性を思いやるメールが沢山保存してあったんです……。送った形跡はありません。一年以上前からずっと、誰かに当てたメールが保存され続けていたんです」


「貴女宛じゃないの?」


「違います。私は携帯を二つ持っていることすら知らなかったので……」

 


 心の浮気っていうことね。

 それにしても高校の教師、か。生徒とだったら面白いのに。

 

 

「でも、それじゃあ手を出してないってことでしょ? 思いとどまってくれていい旦那さんじゃない?」


「はい……。でも、一年以上も、私ではない誰かの事を思いながら私と暮らしているんだと思うと辛くって……。どうしようもないことなんですけど、旦那には好きでもないのに私と一緒にいてくれているという申し訳ない気持ちと、裏切られたような気持ちで一杯です……」

 


 気持ちはわからなくもない。

 結婚したら、一生パートナー以外好きにならないのか? 道徳的にそうであればいいけれど、私たちは人間だもの。綺麗事だけじゃ人生は語れない。

 結婚した次の日に、とてつもなく素敵な人に出会うかもしれない。それは誰にもわからないのだから。

 


「すみません。本当に仕方のないことですよね……。私、六歳になる子供がいるんです。旦那に任せて、逃げてきちゃいました。あの人、子供のことは大好きみたい。来年、小学校に上がればもっとお金もいるし、子供の成長を思うと、私が我慢すれば言い問題なんですよね。あの人も、きっとそう思ってくれていると思います」

 


 そう言うと彼女は、グラスに残ったお酒を一気飲みした。

 

「すみません。なんだか心配になってきたので帰ります。こんなくだらない話、きいてもらっちゃって本当にすみません。よかったら、今度ご飯おごらせてもらえませんか?」

 

 

 

 

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「よかったんですか?」


 マスターがグラスを拭きながら、私に話しかけてきた。


「なにが?」

「好みの子だったんでしょう?」

「いいのよ。毎週この時間にいるって伝えたし。それに、子持ちだしね」


 私は彼女が書いたメールアドレスがのった紙を、グシャリと丸めてくずかごへ投げた。ゴミは放物線を描き、綺麗にくずかごへ入る。

 

 

 内心、本当に好みだっただけに、少し残念だった。

 だけど、私も彼女の旦那のように、家庭を壊せるほどの覚悟はない。

 所詮は遊びだ。

 

 

「むこうはどうか知らないけど」

 

 

 

 

 

つづきます