貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

10綴り 裏切りの閃光 ③

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10綴り 裏切りの閃光 ③

 

 

 次の週のこと。

 バーに行くとマスターが小声で私につぶやいた。

 

「先週のお客様を覚えていらっしゃいますか」

 

 忘れるわけがなかった。

 

「ええ。覚えているわよ」

「ついさっきまでいらっしゃったんですよ。貴方に会いたいといっておりました」

「そりゃどうも」

 

 でも、私は結局いいように使われたのよ。

 何か言いたげなマスターの言葉を消すように、私は注文をする。

 

「マスター。ジントニック頂戴」

「はい」

 

 彼女、本当は遊ぶ気なんてなかったの。

 ただ話を聞いて欲しかっただけ。

 甘え方を知らなかっただけ。

   そう思うと腹がたつ。


 

 素早くジントニックを作ったマスターは、私に一言こういった。

 

 

「旦那さん、捕まったらしいですよ」

 

 

 それだけ言うと、お会計を求める客のもとへ行ってしまった。

 最後の客がちょうど店から出たとき、カウンター内で私と向かい合わせになるように椅子を持ってきて座った。

 


「先週、彼女が帰ると旦那さんがいなかったそうです。翌朝、警察が押しかけてきたと。なんでも、旦那さん、生徒をストーカーしていたらしいんですよ……」

 

 

 マスターが話すには、彼女の旦那はずっと自分の生徒をストーカーしていたらしい。生徒は精神的に病み、黙って転校したが、それでも旦那は生徒を追いかけ続けた。


 彼女がここに相談に来た先週も、旦那は家を抜け出してストーカーをしていたようだ。そこを警察に職務質問され、捕まった。


 おしとやかな彼女の話す、家庭のために乙女ゴコロを隠す旦那は一変してただの気持ちの悪い犯罪者に成り下がった。

 彼女の苦しみや葛藤の裏で、後先考えず、旦那は楽しんでいたのだ。

 ただ、明るみにならなかっただけで。

 苦虫を噛み潰すような、後味の悪いエンディングだった。

 彼女はただ、気持ちの整理をするためだけにここに子供と訪れたのだという。

 


「貴方にありがとうと伝えてくださいと言われました」

 

 

 マスターは立ち上がった。

「どこか遠くへ引っ越すそうです。連絡してくださいと言っていました……」

 

 

 その時私は、彼女の連絡先を残しておけば良かったと後悔した。

 そんな私の心を見透かしたように、マスターはグラスを拭きながらこういった。

 

 

「まぁ、でも一番かわいそうなのは子供ですよ。親の都合で、離婚して、引越しして、友達もいただろうにね。旦那も、彼女も、どっちもどっちですよ。子供がいるのにそっちのけで自分の好きな、楽なところへ逃げ出しているんですから。皆、勝手なんです。子供に罪はないのにね」

 

 

 私の後悔をマスターは拭いていくようだった。

 そう、こんなところへ来る人は、合意の上、だったのだ。

 彼女もきっと、まともではなかった。

 言葉の上では自分に非はないといっていたとしても。

 心が、もうすでに浮気をしていたのだ。


    子供よりもなにもよりも、自分が可愛かったんだろう。