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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

12綴り 童貞は二度死ぬ 後編

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グロ

この物語はフィクションです

エッチっぽいシーンが入りますが大丈夫です。安心してください。

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12綴り 童貞は二度死ぬ 後編

 

 童貞は二度死ぬ。

 社会的にも。本当の死という意味でも。

 

 

 脊髄に埋められた爆弾が疼く。

 本当に疼くわけではないのだが、ただ、俺を急かすように疼いている、様な気がするのだ。

 俺は彼女を走って追いかけながら、首筋を掻いた。

 

 幼い頃から恋愛結婚を夢見て生きてきた俺は、今の今までプライドを捨て、妥協して好きでもないやつと結婚しようとしていた。

 だが、本当にそれでいいのか?

 たった一度の結婚。

 人生の墓場、結婚。

 離婚は法律で許されない。

 

 かくいう俺の両親も仮面夫婦だった。

 冷え切った家庭。俺伝いに会話する家庭。

 俺は伝書鳩だった。

 

 もう一度言う。

 たった一度の結婚。

 

 それはたった一度の俺の人生なのだ。

 本当に妥協していいのか?

   そんなくだらない自問自答は、彼女のポニーテールが振り払った。

 

 やっとの思いで彼女の腕を掴む。

 

「あ……の……、時間、ありませんか?」

 

 息切れを起こしながらそういうと、彼女はいぶかしげな表情を浮かべながらも頷いてくれた。

 

 

 俺たちはファミレスに入り、向かい合わせに座った。

 

「好きなものを頼んで」

 

 俺はそう言いながらメニューを渡す。

 彼女は「ありがとう」と言うと細くきれいな指でメニューをめくり、小さな声で「じゃぁ、オレンジジュース」と言った。電車で怒鳴っていた彼女と同一人物とはとてもじゃないが思えない。


 俺は店員を呼び注文する。店員は業務的な受け答えをし、頭を下げると戻っていった。目の前に座る彼女との間に沈黙が訪れる。


 なにか喋らなくては。焦ると頭の中が真っ白になった。

 

「あの、電車での言葉、最高でした」

 

 あろうことか俺は涙目になりながら意味のわからないことを口走っていた。

 

「あ……ちが……! いや、そう言うことが言いたいんじゃなくて、あの……、俺、君と結婚を前提につきあいたくて、あの……その……です」

 

 

 もう何が言いたいのかわからない。

 いや、何も間違ってはいないのだが、せめてもっとオブラートに言いたかった。

 

「あたしと……結婚したいの?」

 

 彼女は目を丸くしていた。

 そう言えば俺は彼女の名前すら知らない。

 

「え……、あ、はい」

 

 俺の気の抜けた返事をきいた彼女は、頭の先から靴の先まで俺の姿をじろじろ見て、にっこり笑った。

 

「いいよ。今日一日デートして、あたしを楽しませてくれたら結婚してあげる」

 

 そういうと彼女は店員が持ってきたオレンジジュースをおぼんからさらい、一気飲みをする。

 

「さ。時間がないからいこう」

「え?! あ、まって」

 

 俺は自分が頼んだアイスティーを飲むことなく立ち去った。

 レジには二千円払い、おつりはいらないといって、急かす彼女を追いかけた。

 

 

「あたし、アサヒ」

 

 彼女はそう名乗ったが、それが苗字なのか名前なのかはわからない。

 俺は冬一郎と名乗り、一応名刺を渡した。

 アサヒは名刺を見るなり、「ひゅぅ」と口笛を吹く。

 

「大企業じゃん」

「一応、ね。だから、不自由な生活はさせないよ」

「あはは。有望株だね」

 二人顔を見合せて笑った。

 

 

 まずは大型ショッピングセンターへ向かう。

 彼女は女子高生らしくファンシーな店を所望し、見つけるなり一人とんで行ってしまった。

 

「やーん。かわいいー!」

 

 大きなキャラクターぬいぐるみを抱いたり、マグカップを手に取った。そのすべてを俺が買おうとすると、彼女は不機嫌な表情を浮かべた。

 

「買ってほしいから一緒に来たんじゃない」

 

 結局なにも買わせてもらえず、彼女はかわいらしいレターセットと文房具を一人レジに持って行き会計を済ませてしまった。

 

 

 次は映画館。

 片思いの男女が最後は結ばれるラブストーリー。

 ちらりと隣の席に座るアサヒを見ると、目にいっぱいの涙を浮かべていた。


 暗転するとすぐ立ち上がり「ちょっとお手洗い。映画館の出口でまってて」とだけ言い残し、走って出て行ってしまった。化粧直しかもしれない。


 俺は明るくなるのを待ち、ゆっくりと出口へ向かった。


 出口ではアサヒがもうすでに待っていて、「ごっめーん。アイプチがとれかけてて」と笑った。

 

「アイプチつけてるの?」

「うん。カラコンもつけてるよー。みる?」

「いいよ! 遠慮しておく」

 

 

 そのあと、UFOキャッチャーで遊び、気がつくと日は暮れていた。

 

「そろそろ帰ろうか」

 

 俺がそう提案すると、彼女は少し考えるそぶりをした。

 

「うーん。なんだか疲れちゃった。休憩していかない?」

 

 アサヒが何を言っているのかよくわからなかった。アサヒの荷物はすべて俺がもって歩いていたし、アサヒが疲れないように細かく休憩をとっていたつもりだった。俺の配慮が足らなかったのかもしれない。

 ふと顔をあげるときらびやかなラブホテルが目に入る。

 

「ね? ダメかな?」

 

 その時やっと鈍い俺は理解した。

 

「いいよ。ちょっと休んでいこうか」

 

 

 中に入るとパネルに部屋の写真だと思われるものが写っていた。

 どうしていいか分からず、きょろきょろしているとアサヒが「えい」とパネルの下にあるボタンを勝手に押してしまった。

 壁の矢印がチカチカと音を立てて光る。

 

「たぶん、この矢印に沿って歩けば部屋に着くよ」

「来たことあるの?」

 

 俺がおそるおそる聞くとアサヒは噴き出して笑う。

 

「あはは。まさか。友達が言ってたの」

 

 

 部屋に入るなり、アサヒは俺に抱きついた。

 

「いい時計ね」

 

 アサヒは俺の腕時計をじっと見つめる。

 

「アサヒにも買ってあげるよ」

「ありがとう。ねぇ。さきにシャワー浴びてきて」

「わかった。でももう少しこのままで」

 

 初めて触れるぬくもりに、俺はクラクラしていた。アサヒは折れてしまいそうなくらい細い。

 もう少し、というあいまいな時間にしびれを切らしたようにアサヒはもう一度催促する。

 

「ねぇ」

「うん?」

「冬一郎、ほんとにごめん」

 

 

 

 その声を最後に、彼女の柔らかい肉体は俺の腕の中で爆発した。

 

 

 爆発に伴い、鼓膜をつんざく音と光に何が起こったのかよくわからなかった。生暖かい血が、顔にべったりと覆いかぶさる。

 原型もとどめないほどぐちゃぐちゃになったアサヒだったものが腕の中に乗っていた。吹き飛んだ肉片の中に不釣り合いなものが転がっている。


 男性性器だ。

 

 アサヒは男だった。それも今さっき誕生日を迎えた三十歳だ。

 彼女の学生かばんには、男物の革の財布。免許書には中世的なアサヒの顔が写っていた。

 そのほかに、俺にあてた手紙も見つけた。ファンシーショップで買った封筒に「冬一郎さま」と書いてあった。


 手紙には性別を偽っていたことに対する謝罪があり、自分には残された時間が少ないこと。

 性別について幼いころから悩んでいたこと。結婚を諦め、最後に好きな女装をし自殺するつもりだったとかわいらしい丸文字で綴られていた。


 電車での罵倒は、アサヒの心からの叫びだったのかと思うと俺は胸が締め付けられる思いだった。


 徐々に冷えていくアサヒだった物を抱きしめる。完全に冷たくなると、俺は何事もなかったかのように無表情で警察に連絡し淡々と死体の処理をした。

 

 

 次の日。

 俺は会社を二日連続で無断欠勤し、結婚相談所へ向かった。

 検索機で上から五番目の女性を選び書類を印刷する。受付カウンターで十分ほど手続きを行うと俺は晴れて既婚者になった。

 女性の事は何も知らない。

 

 

 

 プライドじゃお腹は膨れない。

 プライドじゃ心は満たせない。

 死んでしまっては元も子もない。

 俺はアサヒのように貫きたい信念もなかった。

 だからこれでいいのだ。

 

 俺は何度でもアサヒの事を思い出すだろう。

 それで十分だ。

 この胸の痛みが愛なのだから。

 アサヒはもうこの世にいないから、別れることはないだろう。

 

 

 

おわり。

 

 

 

「ねぇ、恋人と死別すると悲しいのに、一方的に別れを告げられると怒りに変わるのは何故だろう……」 

 

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