貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

15綴り きみちゃん、きみしかいないんだ 

 

短編

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ちょっと最近小説書き過ぎて頭がおかしくなってるのかもしれない。 


 

 

 

 

15綴り きみちゃん、きみしかいないんだ

 

 

 僕は自分がいかにクズ野郎であるかを確信した。

 

 

「キミヒコー! 出てきなさいよ!」

 幼馴染が僕の名前を呼びながら、自室の扉をガンガンとノックする。今にも突き破ってきそうな勢いだ。

 僕は布団を頭からかぶり、ブルブルと震えていた。

 そっと布団をあげて布団内に光を入れる。

 

 全体的に淡いピンク、白く繊細なレース、全体に合わせたピンクのリボンをふんだんにあしらった女性用の下着が、僕の股間を窮屈そうに包んでた。

 勿論、胸部にはお揃いのブラ。

 我ながら滑稽である。

 

「だけど……」

  

 腕や足にさっきまで沢山あった発疹がなくなった。

 

「痒く……ない」

 一人感動する僕であったが、扉の向こうではゴリラのドラミングみたいな激しいノックが行われ続けていた。

 

 


 

 時は少し遡る。先月三年間付き合っていた彼女に「男として見れない」「包容力がない」「顔はいいけど、飽きた」と言葉のナイフでめった刺しにされたあと「きみひこは優しすぎる。だから別れたい」と納得できない言葉で別れを告げられた。しかし、彼女の暴走はとどまるところを知らず僕は取り付く島もなく、ただオロオロとして彼女が去っていく背中を見送った。


 それから僕、成田きみひこの人生は何もかもが上手くいかない。

 会社を辞め、(元)彼女と二人で住んでいた賃貸マンションをさり、実家に帰ってきた。さて、新しい就職先でも見つけるか、と張り切っていたのだが体中に発疹ができ、外に出られなくなってしまったのだ。

 

 発疹は顔にも、喉の中にもでき、鏡を見るのも苦痛でおまけに声も出せなくて、大げさだけど死んでしまいたいとも思った。

 

 

 

 だが、荷物を整理したときダンボールの中に、元カノの下着を発見し、心臓がドキリと音を立てた。


「な、なんだこの感情は」


 正直いうと、僕は下着にはまったくそそられない人間だった。彼女が下着姿で、「どぉ? 似合う?」と目の前でくるりと回ってみても、生返事を返すほどに。


 しかし、僕はその時確かに、下着に興味を示していた。

 恐る恐る手を伸ばす。

 

「これってつけたらどんな感じなんだろう」

 発疹でのどが痛むのを忘れ、呟いていた。

 ごくりと生唾を飲み込む。

 ここは僕の部屋で、今日は家族も外出していない。

 

 

 しかし、僕はいきなり女性ものの下着を着用するだなんて外道な行為はしなかった。

 

 

 まずはお風呂に入り、体を清める。そして、ひげそりで全身の毛をきれいにそりあげた。

 なぜ毛をそるか? 自分で見たときに残念な気分になりたくないからだ。

 そうしてやっと、下着を着用する準備が整った。

 

 

 まずは、ショーツを手に取る。バックスタイルはほぼ紐だ。

 二つの穴に足をくぐらせ、ゆっくりと上まであげるとお尻に紐が食い込んだ。

 微弱な締め付けと圧迫感で気持ちお尻が上向きになった。気がする。気持ちいい。

 

 つぎは、ブラジャーだ。後ろにホックがついているスタンダードタイプ。

 今までは人のブラを外すプロであったが、つけるのはアマチュアだ。

 僕は意気揚々と紐を肩にかけた。そうして、背中で遊ぶホックを手に取る。

 

 が、ホックが上手く取り付けられない。何度もホックとホックを合わせようとするが、爪がなかなか引っかからず、何度も失敗した。

 なんとか死に物狂いで取り付けると、そこはかとなく達成感を感じていた。

 

   汗ばみながらも、姿見をみたその時だった。玄関扉が開く音が聞こえた。

   おかしい。皆、僕を置いて温泉旅行に行っているはずなのに。

   勢いよく階段を上がる音。僕は咄嗟に布団に包まった。この姿をみられてはいけない。

  足音は 階段を上りきったようで、ドス、ドスと僕の部屋に近づいてきた。そうして、足音の人物はドアをノックする。

「ねぇー?  キミちゃんー?  おばさんに聞いたんだけど帰ってきたんでしょ?」


   声でやっと幼馴染の優香だとわかった。ほっと胸をなでおろしたのも束の間。幼馴染だからこの姿をみられてもいいというわけではない。

   僕は部屋を見渡した。とにかく服をきるのだ。が、服がない。

   脱衣所に忘れてきてしまったのだ。


   ここは、やり過ごすしかない。ただの幼馴染の優香がなんで僕の家の鍵を持っているのかという疑問はすてて、やり過ごすしかなかった。


   そうして、いまにいたる。

   やり過ごすどころか、ノックはドラミングから更に激しくなり、太鼓の達人ならぬノックの達人に成り果てている。困った。

「ねぇー?  キミヒコー?   寝てるのー?」 

   扉の向こうで声がする。

   しかし、この激しいノックをしながら、甘い声を出しているのかと思うと少しジワるところがある。全然笑えないんだけど。

   部屋の隅で布団をかぶり、震えていると急にノックが静かになった。僕が顔をハッとあげると、扉の向こうで「ち。留守か」と聞こえた。ドスドスという足音が階段を下りていき玄関扉が閉まるを聞く。僕は胸をなでおろす。

   印象が強烈すぎたけど、とにかく服を着ようと思い、布団からでて立ち上がる。


  内側の鍵を開け、そっとあけて出ると下の階段から優香が僕を見上げていた。


「いるじゃん。キミヒコ」

「あ……はい」


   三年ぶりにあう優香は思ったより可愛かった。白に近い金髪をポニーテールにし、アネモネ柄のミニスカワンピースと芸能人のようなデカイサングラスをかけている。

   上記にある「思ったより」というのは、あんなに見事なドラミングノックをする優香はゴリラしかありえないと思ったからである。



「なんで、あんた女性ものの下着つけてんの?」

   ごもっともだ。

「実はかくかくしかじかで」


   僕は服を着せてもらえないまま、居間で正座をしながら今までの経緯を優香に説明した。

「なるほど。ブラジャーをつけたら発疹が治ったと」

   そういうことなんです。

「じゃあ、ちょっと外してみよっか」

   そういうと優香は近づき、僕のブラをおもむろに外した。突然の開放感に少しときめく。なるほど、こんな感じなのか。


   その瞬間、ドミノ崩しのように頭から足の先まで発疹が現れた。

   優香はそっとブラを付け直す。発疹は消えた。


「なにこれ。ちょー面白い」

  僕は全くもって面白くない。



   優香はひとしきり僕のブラを付けたり外したりして遊ぶと、飽きたようだった。突然、話始める。

「っていうかさー。これじゃ、就職活動大変じゃない?」

「な、なんで?」

「だってブラつけながら面接いくの?  仕事するの?   バレたら大変じゃん。おばさん、泣くよ?」

   う……。

「私、おばさんにキミヒコの就職手伝ってって言われたんだよね。それで家の鍵、もらってさ」

   優香に手伝ってもらって出来る就職とは。


「でも、そんなキミヒコにいいお仕事があります」

   へ?



   僕は気がつくと、銀座のホステスになっていた。優香の店で女装をして働くことになったのだ。

「もー。本当、きみちゃんには大助かりよ」

   よそ行きの口調で優香はしゃべる。


「きみちゃん、きみしかいないんだ!   なんちゃってね」