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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

20綴り 遠い春に、私は恋をしながら。

短編。

続編

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onisisino.hateblo.jp

 

 

 

 

 

 

 暑い夏が過ぎ去った九月のこと。

 私は春と月に一度会いながらお互いの距離を縮めようとしていた。でも、それでも春は優しいのによそよそしくて……。

 


    私は焦っていた。

 春の事を知れば知るほど欲しくなったからだ。駄々をこねる子供のように欲しくなった。だけど、春は見えない壁を作っていく。


 そう、たとえば、たまに会っても絶対に日が暮れるまでに帰ってしまったり、私が少し下心を出しても、するりとかわされてしまう。


 欲しくて、欲しくてたまらなかった。


 今まで生きてきて、こんなに何かを欲したことはない。喉から手が出る程って言葉がこれほど染みたこともなかった。

 でも、春は私がどれだけ望んでも手に入らない。

 

 

 なんで春は引きこもりなのにお金を持ってるの?

 なんで春はそんなに可愛い服をきてるの?

 ねぇ、春の同居人は女の人?

 ねぇ、それって彼女?

 

 

 聞きたいことが山ほどあった。でも、聞いてしまったら、春を欲しいと望むことさえも拒絶されてしまうんじゃないかと思った。

 

 

 真夜中、不意に目を覚ますと、春の事を考えた。

 不安が胸一杯に広がる。

 

 

 私の事好き?

 ねぇ、付き合ってよ。

 

 

 妄想の中で、春を追い詰めてしまう。

 これはイケナイ恋なんじゃないだろうか。そんな不安。

 春に出会って、私が汚れていく。もう純粋に、春を好きだと思えなかった。

 

 

 途端に、暴走する自分がいた。

 春の過去の日記を漁る。女の痕跡を探す。

 水色のマグカップが写真に写っていただけで胸が苦しくなって邪推した。

 

 

 春、春、春。

 私は何としても春という人が欲しかった。

 

 

 十一月。

 少し遠出して春と栗拾いに行くことになった。

 なんでもパウンドケーキに入れるんだとか。

 一緒にいられる口実ならなんでも良かった。

 

 

 

 

 彼が栗を足で踏みつけてイガを外していた。

 パキリ。

 秋の乾いた空に響く。

 

「で、ね、こんなふうに栗をイガから外すんだ。絶対手で触らないでね。痛いから」

 

 そういって春は私に微笑みかける。優しい顔、優しい声、優しい言葉。

 今この一瞬は、その全てが私に注がれている。

 

「ハク、どうかした? 俺の顔、なんかついてる?」

 心配そうに私を見つめる春。でも、この一瞬だけなのだ。あと数時間すれば春は家に帰り、私の知らないところで誰かとパウンドケーキを作り食べるんだろう。

 

 

 そうおもうとたまらなくつまらないと感じる。

 春が好き。そう思うのに、その感情がくだらない。

 グラグラな関係。グラグラな気持ち。面倒で、困る。

 

 

「なんでもない」

 

 私はそう不機嫌そうに吐き捨てた。

 春が眉をひそめる。

 

「栗拾い、嫌だった? ごめんね」

 

 私の返答も聞かずに謝る春。そんな春を見ると、私のことをもっと考えてくれたらいいのにって思う。私で春の頭の中を一杯にしたい。困らせたい。

 

「ううん。栗は好きなの」

 でも、隠し事の多いあなたが嫌いなの。

 

「そっか、じゃあ、パウンドケーキ、ハクにもあげるね」

 春は私の気持ちなんて知らずに無邪気に笑う。

 

 好き、でも憎らしい。

 

「わぁ、楽しみ」


 乾ききった声と、棒読みなセリフ。全てを壊したくなっている。

 

 

「ところで春、そのパウンドケーキはさ、私以外に誰かにあげたりするの?」

 

 これが春じゃない男の子なら「そんなことお前に関係ないだろ」と突き放されることだと思う。

 でも、春がそんな風にいわないってことは私が一番わかっていた。

 その答えだというように、春はなんでもないような顔をしながら焦っているのが手に取れた。

 

 

 

「彼女にあげるんだ」

 

 

 悪びれもせず、そういった。

 

 いや、春は悪くない。

 私たちはネット内での『友達』だ。

 私が勝手に春を好きなだけ。浮気でもなんでもない。

 

 そのあと春は、栗を拾いながら「ひとつバレてしまったら仕方がない」とでも言うように色んなことを話してくれた。

 

 

 社長夫人の彩音さんという人に春が飼われていること。

 自分が遊ぶお金は単発のバイトで稼いでいること。

 それでも住むところや食費、光熱費は全部彩音さんが出しているという。

 

 ようするに、春はヒモだということだ。

 

 ニートな私は、春に「自立しなよ」なんて言えなかった。

 ただ、希望が欲しい。それでも春が好きだから。

 

「春は、彩音さんのこと好きなの?」

 

 私はかすれる声でそう言った。

 すると春は頬を掻きながら、苦笑する。

 

「んー、良くしてもらっているとはおもうよ。自立しなきゃなぁとも。それに、結婚してるしね。彩音さん」

 

 どこか言葉を濁す春に私は心の底から安堵した。

 春は彩音さんのことを好きじゃない。

 好きなら好きだと言うはずだもの。

 

「そうなんだぁ……じゃあさ」

 

 私はもう、楽しんでいた。

 どうにでもなれという気持ちで。

 

「私と一緒に暮らしてよ」

 春が絶句している。

「私、春が好きなの」

 すがるように、そう言った。

 

 

「え、あの……」

 しどろもどろになる春。目が揺らぎ、泳いでいる。

 

 

「だって、不倫はいけないよ! ね?」

 

 そういって、春の手を握った。

 

「そ、そうだね」

 苦しそうに吐き出す春をみて、私は笑った。

 

 

 

 

 

つづきます