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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

21綴り 遠い春に、私は恋をしながら 【後編】

短編 物語

 

大分 遅くなってしまいました。

 

 

onisisino.hateblo.jp

 

 

onisisino.hateblo.jp

 

続きです

この物語は、フィクションです。

 






 

 スマホの画面に明かりが灯る。

 獲物を見つけた猫のように私は掴みかかった。

 

 

 

 春曰く、社長夫人の彩音さんに恋愛感情はないという。

 

 

 私が自分の醜さに溺れたあの日、春は私のことを嫌うでもなく、ただ受け入れてくれた。それどころか、一緒に自立しようと言ってくれた。

 はじめは迷っていたようだけれど、最近は前向きな将来の話をしてくれる。

 

『海が見えるマンションを借りよう』

 

 そんな彼からのメールを見て、私はクスリと笑う。

 まるで子供同士のかなわない約束みたい。現実味のない会話ばかりしている。

 私たちはまだお互い、誰かのスネを齧って生きているのに。

 

 彼の前向きさを見習わないといけないと思った。

 私は立ち上がって、ゆっくりと階段を下りた台所で老眼鏡をかけながら雑誌を読んでいる母に声をかける。

 

「ねーねー。お母さん」

 

 私に気付いた母は、メガネを外した。

 

「あらあら、最近体調いいのね。外にもよく出るようになったし」

 そういって柔らかく微笑んでくれる。

 

「そうなの。最近、すっごく生きていることが楽しいの。それでね……私、バイトがしたいなって……」

 

 母はぽっかりと口を開けて私を見つめていた。立ち上がり、歩み寄り、私を抱きしめてくれる。母は、静かに泣いていた。

 ほんの少し前まで引き篭りっきりだった私を、両親は本当に心配してくれていたから。

 

 その一ヶ月後、バイト先は母の知り合いが経営するスーパーで、短時間だけど雇ってもらうことになった。はじめは棚に商品を出したり、レジの手伝いをしたりした。作業自体は、耳の聞こえにくい私にでも補聴器をつければなんてことはなかった。ちょっと作業をするだけで汗が出る。それも嫌じゃなかった。むしろ、心地よくて。

 ちょっとしたことでほかの人やお客さんに頼られると、それだけで「あー、生きてていいんだ」って思えた。

 

 そんなこんなで、私は生きていくことに自信を持つことができた。

 春には今までバイトをしていることを黙っていたんだけど、頃合を見て言うつもりだ。

 

 ある日のことだった。

 バイトから帰ってきて久しぶりにノートパソコンを開いた。

 思えば最近春の日記を見ていなかったなぁ、なんて思いながら溜まっている日記を読んでいく。

 

 最新の日記でのことだ。

 題名は『目が痛い><』だった。

 春のバッチリ二重の写真がアップで載っていた。右目が酷く赤かった。

『右目が昨日からメッチャ痛い><。。。病院って高いしなぁ~。ゴミでも入ったのかなぁ』

 と、春にしては短めの内容だった。

 

 ちょっとだけ気になった私はあえてコメントせず、メールを送った。

『日記見たよ~(´・_・`) 目大丈夫?』

 メールは直ぐに返ってきた。

『多分大丈夫! 明日も痛かったら病院行くね。心配かけてごめんなさい(´・ω・`)』

『そっか。そのほうがいいよ! あ、私、最近バイト始めたんだ! お金貯めて早く一緒に暮らそうね』

『ハクえらいね~ヽ(*´∀`)ノ 僕も頑張らなくちゃ』

 

 案外元気そうで少し、ホッとした。

 バイトからの疲れか、スマホの画面を伏せてベッドへ横になった。うつぶせで顔だけ横を向く。深く息を吐くと、段々まぶたが重くなった。

 

 

 次の日の夕方、私はSNS内で春にブロックされていた。

 はじめはSNSを退会したのかと思った。友達の欄に彼がいなかったからだ。でも違った。彼はまだSNS内にいるにも関わらず、私は彼のページに入れないでいた。

 ショックだった。

 何かの間違いかも? そんな風に思って何気ないメールを送った。返ってこなかった。

 

 バイトにはちゃんと行った。春のことは、とっても残念で悲しかったけれど、働くことはやっぱり楽しかったからだ。

 バイトの時間を増やして、徐々に社会に馴染んでいった。

 

 

 リアルは順風満帆だ。

 不思議とSNSにログインしなくなって、はじめから春なんていなかったみたいに私は現実世界を生きた。

 それから二年後、バイトから正社員になり、貯めたお金で一人暮らしをすることになった。『海の見えるマンション』ではないけれど、それなりに小奇麗な1LDK。

 

 

 今日はその引越しの日。

 

 荷物を解いていると古ぼけたダンボールから使い古したノートパソコンが出てきた。

 懐かしくって、スマホのデザリングを使ってインターネットに繋げる。

 お気に入りにいれたSNSのTOPページが出てきて、私は内心ちょっとはしゃいだ。みんなまだやってるんだろうか。ログインIDもPWも覚えている。忘れるわけがなかった。

 

 私は驚いた。

 友達のページに『春』がいた。

 

 日記は、もう一年以上更新されていなかった。

 だけど私がブロックされてからの日記が更新が途絶えるまでほぼ毎日続いていた。

 

 

『目が痛くって眼科に行ったら腫瘍ができてた。直ぐにK大学病院に行くように言われて、精密検査したらガンだって』

 

 

 私は『ガン』という単語を見たとき、スクロールする手が止まった。指先が冷たくなる。でも、日記の更新が止まっていることから、もう、結果はなんとなく見えていて、堪らなく、吐き気がした。

 彼の痛みを想像しながら、私は読みすすめた。

 

 

 

『悪性か良性かは今検査中。でも、ガンはガン』

 

『悪性だった』

 

『転移するのを防ぐために、目玉を摘出するらしい。命には変えられない』

 

『眼球の摘出をした。眼帯をとるのが怖い笑』

 

『ガン、転移してた。明日から入院で、もう日記の更新もできないな。Aさんにはお金だしてもらってばっか。悪いな。Hちゃんにも、悪い。僕サイテーだな』

 

 最後の日記はその半年後だった。

 

『もう末期なんだって。若いから、細胞が活発らしい。転移も早くて、放射線治療とか薬も飲んだけど全然ダメだった。若くて、もう末期だし、お金をだしてくれるAさんにも悪いから明後日から新薬の臨床試験を受けることにした。そしたらちょっとは入院費も安くなるらしい。Aさんは、それを知って「弱気にならないで早く治しなさい」って泣いてくれた。僕はホント、悪い男だなぁ~。もう日記もかけないと思うけど、ほんとごめん』

 

 

 

 彼の気持ちは、わかる。

 私も彼に補聴器をつけていることを言わなかった。相手の重荷になりたくなかった。

 私と春はよく似ている。

 私は春に頼られたかった。

 春は、どうだったんだろう。

 

 

 

おわり

 

 

 

二人のH氏と小学生へ。