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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

24綴り ここでは窒息する

フィクション

グロ。

 

 

 

 

 

 

24綴り ここでは窒息する

 

 帰りたい、空を見上げて心からそう願う。

 

 黒くて長いお化けみたいな髪。黒縁めがねと酷い猫背。

 どんなに暑い日でもモコモコのカーディガンを着ていた。

 体育の授業は何時も欠席するから、クラスメイトからは何時も馬鹿にされる。でも、どんなに馬鹿にされても私は構わない。

 お前たちと、私は違うのだから。

   そう心の中でバカにする。

 

 

 急ぎ足で家に帰り、自室でカーディガンを脱ぐ。

 セーラー服を脱ぎ捨てて、私は鏡で何度も自分の背中を確認した。

 小さな手のひら程の、白い翼がキラキラと輝く。

 これが私の自慢の翼。

 育ての両親しか知らない私の翼。

 まだ飛べないけれど、飛べるようになったら自分の国へ帰っていいことになっている。

 だから、嫌いな学校も飛べるようになるまでの辛抱だ。

 そう思うと、学校での陰険なクラスメイト達もかわいく思えてしまう。

 

 

 私は唸りながら、翼を動かした。

 文字通り、少し動かすことしかできない。

 動かせることと飛べることはまったく違う。

 この調子では、高校を卒業しても飛べるかどうかはわからない。

 そんな不安が私を襲う。

 学校ではクラスメイトを馬鹿にして、家では帰れないかもしれないという不安で辛くなる。そんな毎日。

 

 

 ある日のことだ。

 担任が体調を崩し、HRが自習となった。

 私は図書館で借りてきた「鳥の本」を開く。生物学から飛べる仕組みを勉強しようと思ったからだ。

 図鑑に載っている美しい鳥達の飛翔写真を見ると、胸が締め付けられる思いだった。

 私も早く飛びたい。

 そんな風に願ってならない。

 

 

「ちゅうーもーく」

 馬面の時田と言うクラスメイトが机の上に乗り、立ち上がった。

「今から小枝村がリストカットするものまねをします」

 名前も知らないクラスメイト達が下品に笑いだし、はやし立てた。

 最低な気分だ。

 小枝村と呼ばれた冴えない女の子が俯き、自分の机だけを見つめている。

 時田はチンパンジーの様に机で道化を演じる。

 何も面白くない。

 なのに、クラスメイトは笑う。

 異様で、陰険で、じめじめした空間。

 だから、ここには居たくないんだ。

 

 私は立ち上がり、時田が立つ机に近づいた。

 彼が立つ机を思い切り、彼ごとひっくり返す。

 酷い音がして、醜い顔で煩い声をあげる。

 静かになった教室で、私は次に小枝村に近づいた。

 

「小枝村さん、行こう」

 

 私はそういって、彼女の手を握った。

 どこに行くかは決めていなかったが、なんだかここにいるのは嫌だった。

 一刻も早く、出たい。

 そうだ、私の家に連れて帰るのもいいかもしれない。

 

 何も言わない小枝村を教室から連れ出した。

 

「皆、酷いね」

 

 真っ白な廊下を二人で歩く。

 何の反応もない小枝村を不思議に思って、私は足を止め、小枝村を見た。

 そういえば私は、この小枝村という女の子の顔をまともに見たことがない。

 いつも俯いていて、私同様クラスから浮いている子だった。

 うつむく彼女の顔を覗きこむと、白い陶器のような肌と、真っ黒な目が、ただぼんやりと何もない宙を見つめている。

 

「小枝村……さん?」

 

 握っていた手を離し、恐る恐る声をかけた。

 時田は、よくこんな子をいじめられたもんだ。

 小枝村の、この、生気のない顔。どこか狂気じみている。あんな出来事がなければ、私は声をかけなかっただろう。

 

 小枝村の口がゆっくり開いた。

 

「№9noe、よく私を助けました。貴方の試験はこれで終了です」

 

 小枝村の口から発せられるのは、機械音声だった。

 私は目を丸くする。

 

「よかったですね。高校を卒業するまでに私を助けなければ、貴方の羽は腐り落ち、このまま人間として生活するところでした。おめでとうございます。これで貴方も今日から立派な天使です」

 

 小枝村の首が人間ならば、あり得ない方向へまがり、曲がるたびギュイン、ギュインと機械がスライドするような音が響く。

 未だにこの状況を、私は飲み込めなかった。

 

「天使の、試験? どういうこと? だって、私、まだ飛べない……」

 

「飛ぶ、なんてことは、二の次三の次なのです。本当の試験は、天使の適正テスト。それに貴方は見事合格したと言うわけです。いやぁ、それにしても、下界は最悪ですね。機械の私でも流石に堪えました……」

 

 小枝村は、ケタケタと笑う。

 

「下界はゴミの集まりですから。適正テストに受からなかった劣等感の遺伝子のたまり場。ささ、こんな所はすぐ出ましょう。本物の、お父様とお母様がお待ちしております。迎えもすぐくるでしょう」

 

 小枝村はそう続けた。

 心から本当に喜んでいる様だった。

 

 

 私の心の中には、様々な感情が入り混じっている。

 

「№9noe、どうしたんですか? 帰れるのですよ? 嬉しくないんですか?」

 

 私の心を読み取ったように、小枝村は私の顔を見上げた。

 

「わからないわ」

 

 それが私の本心だった。

 小枝村のような考えを持つ機械が、帰る国にもいるのだ。

 見下して、他者を馬鹿にする思考。

 

 天使もきっとロクでもないに違いない。

 

   どこにも、天国や楽園は存在しないのだ。

 

 

 

おわり

 

 

 

おまけ

高校生の時、大人しそうなクラスメイトが、

「〇〇が、リストカットをしようとして出来ないモノマネをします」と言った。

それが最高に胸糞悪くて、私は大嫌いだったなぁ。