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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

26綴り 花澤千夏は聡明で美しい・2

 18日まで毎日更新

 グロ描写あり

 自己責任でお読みください

 

 

onisisino.hateblo.jp

 

 

 

 

 困ったことになった。

 

 見ず知らずの女子高生を痴漢しようとしたら、ボールペンで利き手を刺され、挙句の果てに踏まれながら

私の奴隷になりなさい

 と脅された。

 しかも弱みも握られて、だ。

 

 

 従うしかない。

 誓ってすき好んで従うわけではない。

 嫌々だ。

 

 

「わ、わかった……」

 

 俺は自由な左手をあげて、降参を示した。

 彼女の口元が少し笑った気がする。俺の手を踏む足をゆっくりと引いてくれた。

 

 

「ありがとう。これで、止血してもいいってことかな?」

 

 さっき彼女が俺の目の前に投げ捨てた赤いスカーフを指さす。

 

「どうぞ」

 

 彼女は何でもない様に毛先をいじりながらそう言った。

 俺の怪我なんてどうでもいいらしい。

 

 

 それにしてもこの右手に貫通したボールペンをどうするかである。

 それは見事に貫通していた。

 ペン先を伝い、ぽたぽたと血液が流れる。

 俺が引き抜こうとペンを握った時。

 

「抜かない方がいいわよ」

 

 彼女はそう言った。

 依然、俺を見ず、毛先を見つめながら。

 

「血が出て止まらなくなるもの」

「わかった。じゃあこのままにするよ。今すぐ救急車を呼んで医者に――」

「何言ってるの? 病院に行くのは私の願いを聞いた後よ。NP13456

 

 

 汗が止まらない。

 何言ってるんだこいつは。

 

 いや、こいつが狂っていることは刺された瞬間から理解していたことだ。

 今は大人しく従って、隙を見て逃げよう。

 

 

「わ、わかった。俺の名前は斉藤だ。斉藤と呼んでくれ。君の願いを聞こう」

「ふぅん……」

 

 顎に指先を置いて、どこか俺を値踏みするような瞳で見る。

 

「いいわ。斉藤さん。私は花澤千夏よ。千の夏と書いて“チカ”よ」

「よ、よろしく。千夏」

 

 そう言って俺はやっとのことで立ち上がる。

 彼女にもらった赤いスカーフを右手に巻いて止血した。

 

「私の願いは、ひとつだけ。今晩一緒にある場所についてきてほしいの」

「今晩……」

 

 俺はぼろぼろの右手を見た。

 こんな状態で一晩もつだろうか。

 

「私の言うこと、聞けないの?」

 

 彼女の口は続いて“え”を発音しようとしている。

 

「聞きます」

 だからもう、俺を脅すのはやめてください。

 

 

 

― ― ― ― 

 

 

 さっきから、妙だ。

 いや、妙だと言えば彼女、花澤千夏と出会ったときから全てが狂っているが。

 

 

 路地が続くのだ。

 俺は千夏の後ろを犬のようについて歩いているが、両脇にある長屋の入り口が永遠と続いている。

 曲がり角もない。

 いつもの大通りにもでない。

 

 

「なあ、千夏。おかしくないか?」

 

 俺はおずおずとそう言った。

 しかし彼女は振り向かず、ただまっすぐ前を向いている。

 

「人生にはおかしいことしかないわ。貴方とこうして出会ったのも、私にとっては凄くおかしいことよ」

 

 それはどう考えても俺のセリフなのだが。

 

 

 

 

 

 

 明日の更新も22時頃を予定しております