貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

33綴り 日記

お話はお話

 

 

 

日記 

  






私はドキリとした。

彼女の小さくて柔らかい手のひらが、なめらかな傷痕をもうひと撫でする。

彼女はそれっきり、終わるまで一言もはなさなかった。 

エステが終わって、熱いタオルで体を拭いてもらう。

 

すると彼女が耳元で 

「終わった後、時間ある?」

と言った。

 

「あるよ」

少しうわずる声でそう返した。

 

そして二人一緒にサロンをでて、ファーストフードに入った。

その間二人とも無言で。

だがしかし、私はというとばれたときこそ、ヒヤヒヤしたものの、もうその時にはどうにでもなれという気持ちの方が強かった。

私はコーラを頼んだ。

彼女はアイスコーヒーを。

 

向かい合う様に座って、私は一口、コーラを飲んだ。

口の中の嫌なものがはじけていく。

 

 

「あの、傷はさ……」

 

 

彼女が言いにくそうに口を開いた。

私は何でもないように

 

「うん」

 

とだけ答えた。

 

 

いや、本当に何でもなかったのかもしれない。

その時の私は、“早く帰って執筆しないとなー”くらいだった。

 

冷めていた。開き直っていた。

 

 


「どうしたの?」

彼女は単刀直入だった。

 

「あーうん、目立つよね。実は昔切られたんだよね。男に。包丁で」


冷めていたし、開き直っていたし、何でもよかったのだけれど。

 

「好きな男に、背中を、切られたの。後ろから」


もう、声が明らかに動揺していた。支離滅裂だった。恥ずかしい。

 

 

 

「あ、でも、もう」


私は両手をひらひらと振る。


「3年も前の話だし」


額から汗が。


「痛くもないし」


早口で。


「なんともないっていうか」


……。


「ごめん」

 

 



私は膝の上に両手を置いた。

汗でぬめっとしている。

 

 

「キモイよね。ほんとごめん」

 


彼女は何も言わない。

 

「私、よく、人に殺されそうになるんだ。なんか、殺したくなる存在らしい。よく、冗談抜きで死ねって言われるし、殺すってよく言われるし、首もよく締められるし、出会った男の人が殺人犯とかよくあることだし……」

 

段々墓穴を掘っていく。

 

 

「殺したくなるフェロモンが出てるんだって」

 

自分で言っていて笑ってしまいそうになる。

なんだよ、殺したくなるフェロモンって。

彼女、肩震わして笑ってんじゃん。

あーもう、ネタ、ネタ。

なんちゃってで、締めよう。

 

 

 

「あーなんかわかるわ。私もエステで体触ってる時、首締めたくなったもん」