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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

34綴り 惚れた俺が悪い【恋愛】

短編 物語

短編

キスなどの表現あり

グロなし

恋愛短編小説 

 

 

 

 

 ドアノブを回すといつものようにすんなりと開いた。

 

「っ……。あいつ……」

 

 彼女がまた鍵を締めていない。

 中に入り、靴を脱ぐ。

  

 

「八重子、鍵締めろつっただろ!」

 

 俺は部屋に入って、先ほどからPC画面に齧りつく朝倉八重子に吠えた。

 

「っさいわね。徹夜明けなのよ! 黙ってくれる?!」

 

 罵声とともに単行本が俺に投げられる。なんとか顔に当たることは免れたが、俺の手によってはじかれた本は、床に叩きつけられた。

 

「~~……!!」

 

 八重子はこうなってしまうとだめだ。

 何を言っても言い返し、キレる。俺が我慢すればいい。

 

 小さくため息をつき、投げられた単行本を拾う。

 

「……投げんなよ」

 

 そう呟く。

 聞こえたのか、また八重子が振り向いて俺を睨む。

 

「なんか言った?」

「なんもいってねーよ」

 

 シッシと、手で払う動作をした。

 

 

 

 朝倉八重子。漫画家。

 長い髪を頭のてっぺんで全てだんごにし、デスクチェアの上で片膝を立てながらペンタブを走らせる。全然色気のない女。

 

「はいよ、御所望のモンエナ」

 

 そういって彼女のサブテーブルにコンビニ袋を置いた。

 

「おにぎりは、俺からのサービスだ」

「ありがと」

 

 ちらりとも、俺の方を見ない。

 感謝もしていないんだろう。

 

「今は何描いてんの?」

 

 彼女に了承も得ずにベッドに座る。

 

「……BL」

「まじで?」

「まじまじ」

 

 沈黙。

 

「見ていい?」

 

 返事も聞かず、立ちあがる。

 

「何? あんた、BLに興味あるの?」

「ねーよ。でも、八重子の漫画には興味ある」

 

 そういって彼女の肩に、顎を乗せた。

 

「重い」

「いいじゃん」

「よくないわよ」

 

 それでも彼女は手を止めない。

 繊細な、何でもない線が、人の表情になり、体になっていく。



 俺は八重子が漫画を描く様子を見るのが好きだ。


 絵心のない俺からすれば、八重子がマンガを描く様は、神様が人間を作る様に思えた。

 


「うわー。結構グロいとこまで描くんだな」

「男性誌でもこんなもんでしょ?  それにあとで修正いれるわよ。いま、そういうの、厳しいんだから」

「へー、そう言うもんなんだな」

「そうよ。それより、そろそろ重いからどいて」

 

 彼女が肩をあげて、どけるように催促する。

 

「いやだ」

「駄々こねんじゃないわよ、気持ち悪い」

 

 彼女がこっちを見たとき、俺はたまらずキスをした。



 彼女の目が見開かれる。

 彼女の薄い下くちびるをなぞり、舌を押し入れる。苦しそうに喘ぐ彼女に噛みつくようなキスをした。


 初めは抵抗していた彼女の腕も、徐々に力をなくし、おとなしくなると俺はゆっくりと離れる。


 お互い息を荒くした。

 

「へたくそ」

 

 彼女は口を開くとそう言った。

 

「いつまでも彼氏面しないでよ」

 

 さっきキスをした口を俺に見せつけるように袖で拭った。

   それでも、俺は八重子が好きだ。惚れた俺が悪いんだろう。

 

 

 

おわり