貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

35綴り 背徳の虫

短編

胸糞悪い短編

 

 

※読者様は本当に大事な存在です※

 

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「クソ! クソ! クッソォォォオオ!」

 

 呻き、手に持ったボールペンを机に打ち付ける。

 細めのボールペンはあっさりと折れ、男の手のひらに破片が突き刺さった。

 

 

「何が、描写が弱いだ! 単純に面白くないだ!」

 

 PC画面に映る文字の羅列に男は怒り狂っていた。

 

 ある書評に対してである。

 男にとって二作目であった。

 

 世間は好き勝手にモノを言う。好きだとか嫌いだとかなんだとか。男にとって、素人に何かを言われるのはどうでもよかった。

 

 しかし――

 

「こいつだけは……こいつにだけは、言われたくない……!」

 

 同時期にデビューした男。

 笹森悠里である。

 一作目が爆発的なヒットを出した男であったが、新作は不人気。その点、笹森は一作目から緩やかな人気と確かな固定ファンによって愛されていた。

 

 男のファンは笹森のファンと質が違う。

 ミーハーで、すぐ手のひらを返すような……敵か味方かもわからないファンだった。

 

 いや、ファンという“イキモノ”は不特定多数であり、実態があるようでないものであり、男の仮想敵として存在しているだけかもしれないが。

 彼にとって、ファンは敵であった。

 

 

 しかし、それ以上に笹森悠里を嫌っていた。

 好きと嫌いはある種同意義である。

 気になって、気になって仕方がない。

 いましがたも彼のブログを検索し、狂った。

 

 彼のブログで男の作品に対する書評を見つけたのだ。

 

 『非常に残念だ。彼の持ち味が生かしきれていない。描写も薄いし、僕は面白みを感じられない』

 

 そうしてつらつらと二千文字程で綴られていたのである。

 

「忌々しい……! こんなに書きやがって……」

 

 男は爪を噛んだ。

 

「書いてやる……! お前を唸らせるほどの作品を……!」

 

 酒を飲んだ。

 精神安定剤を飲んだ。

 ぐらぐらする頭の中でペンを握る。

 

ー ー ー ー ー

 

 男は頭の中で、笹森と出会った時の事を思い出していた。

 

 立食パーティ。

 第一印象はへにゃへにゃした男だった。

 色素の薄い茶色の髪、瞳、白い肌。

 優しそうで、憎めない奴。

 

 笹森は男を見つけると駆け寄った。

 

「ファンなんです……! 貴方と一緒にデビューできて、光栄です!」

 

 眩しかった。

 

 知らない男が男と笹森にビールを勧めた。

 男はへらへらしてもらったが、笹森は断った。

 

「執筆する者は心身ともに健康体でなけりゃいけないとおもうんです。お酒は控えてます」

 

 そういって笑った。

 

 

ー ー ー ー ー

 

「うるせー! うるせー!」

 

 男は目の前に居もしない笹森の幻を振り払う。

 

「何が心身ともに健康だ! こちとら薬と酒がなけりゃ……書けねぇんだよ……」

 

 熱い涙がポツリ、ポツリと原稿用紙に落ちる。

 水性のインクが滲む。

 嗚咽が出るほど男は泣いた。

 

 

 笹森が憎い。

 キラキラと輝いている笹森が。

 

 男の不安など、笹森は知らないだろう。

 

 

 書く恐怖。

 書き続ける恐怖。

 誰かに見られるという恐怖。

 

 なぜ書くのか、男は時折自分に問いかけるが、ただ気持ちが落ちていくだけだった。

 

 

 不安は薬でぼやかした。

 恐怖は酒で流した。

 

 感覚を麻痺させる。

 朦朧とする意識の中で物語りを紡いでいく。

 ただ一点、笹山という光を見つめながら。

 

 

ー ー ー ー ー

 

 男の新しく書いた作品は良くも悪くも世間を騒がせた。

 遺書作として名を轟かせたからだ。

 男は担当に原稿を送った後、マンションから飛び降り自殺をした。

 部屋からは大量の薬と、酒。

 ただ、彼の潰れた顔面は恐ろしいほど穏やかだったと第一発見者は言う。

 

 

 男の作品は、息苦しさを感じるほどリアルで苦しいものだった。

 誰もが良いとも、悪いとも言わなかった。言えなかったと言った方が正しい。

 

 ただ一人、笹山だけは違った。

 彼はブログでこう綴る。

 

『これは先生の真骨頂といっても過言ではないでしょう。ただ、僕はもう貴方に会えないと思うと悲しい。ずっと好きでした』

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

アマゾンのレビューを見るのが好きです。

稀に自分の事ではないのに傷ついたりします。

読んでくれる人が沢山いるのは幸せだろうし、うらやましいと思いますが、きっといいことばかりじゃないんだろうなぁ。

私の作品に寄せられるどんなコメントも自分のために読んでくださった人が時間を割いて書いてくれていると思うと嬉しいです。

でも、情けなさもあります。折角お時間をいただいて、読んでくださったのにごめんねって思います。

 

短編について。

何かに向かって走り続けることって凄く苦しいです。

男は笹山の気持ちにしっかり気づいております。

ただ一点、男は笹山の事が好きだったのです。

手のひらを返す不特定多数より、自分を見つめてくれていた笹山に応えたかったのです。

しかし、男の心は弱かった。

書くことは私にとっても孤独ですから。

 

 

いつもは、なるべく注釈みたいなものはつけないんですが、

読み手は様々ですので色々な解釈があることだと思います。

このテーマは悪いように誤解されたくないので。

 

あくまでも、自分の中では、自分にとって掲げたテーマを予想だにしない解釈をされてもいいものだと思います。

人の意見は人の意見と割り切ることもできますが、稀に“ハッ”とすることがあります。それは自分の力不足で恥ずかしかったり、面白い意見だったり、自分が想像していた以上の深い解釈だったり。

本当に勉強になります。

 

呉西しの