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貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

37綴り 君の声、3秒間に恋をする

短編

恋愛

ちょっとファンタジー

 

スマホ推奨

 

 

 

 僕は何時もどこか間抜けで、残念だ。

 大好きな星見先輩が男子生徒に告白されている場面に遭遇した。

 いつも、そんな具合に、残念なのだ。

 

 

 星見先輩を初めて見たとき、僕は恋に落ちた。

 その感情に気づいて、すぐにアプローチもしたんだ。

 まんざらではない表情を浮かべる星見先輩を僕は今でも忘れない。

 

 初めは偶然を装って、友達と喋りながら先輩にぶつかった。

 落としたプリントを先輩が拾ってくれて、指先が触れ合う。

 そんな風に、ドラマチックに僕は関係を築いていった。

 

 どんなに可愛い女の子に言い寄られても僕は先輩を想い断り続けた。

 先輩しか要らないと。

 いつも自然と先輩を目で追ってしまう。

 

 

 ああ、告白しよう。告白しよう。

 

 

 そう思っても、中々勇気が出なかった。

 

 

 そんな日々の中で、先輩が僕の目の前で告られたんだ。

 僕の知らない男子だった。

 

 

 

 遠目から、先輩が頷く姿が見えて、はき気がした。

 体中から血の気が引いていくのがわかる。

 指先が冷たくなった。

 

 その日、僕はどう過ごして、どう家に帰ったのかわからない。

 だが、気がついた時、ボロボロに泣きながら「サルの手」を握っていた。

 

 

 そう「サルの手」だ。

 三回だけ何でも願いをかなえてくれるミイラになったサルの手だ。

 これが本物だと言うことを僕は知っている。

 

 三本しか生えていないミイラの指が二つ折れている。

 僕は愛おしそうに突き立てられた一本の指に頬ずりした。

 

 母は父の母を呪い殺した代償に死んだ。

 父は鬱陶しくなった新しい母を呪い殺して死んだ。

 

 それが僕にとっての何よりもの証拠だった。

 

 

 

 さて、僕は「サルの手」を床に置き、正座をし、腕を組んだ。

 

「何をお願いしよう」

 

 思わず言葉が洩れる。

 困ったことに先ほどの高ぶる感情はおさまっていたし、涙ももう乾いていた。

 いや、もっと端的に言おう。

 

 僕はビビってしまっていたんだ。

 

 

 

 実をいえば「サルの手」に触れるのは、今日が初めてのことじゃない。

 何度も何度も、心が折れてしまいそうになると、この「サルの手」を納屋から持ち出した。

 祖母が死んだとき、母が死んだとき、父が死んだとき。

 その時々で、誰かに死んでほしくなったし、「お前のせいで」と言いたくなった。

 でも、その度に僕はビビった。

 

 苦しむ母をみて、悶える父を見て。

 僕も“ああなって”しまうのかと思うと。

 

 

「仕方がない」

 

 僕はそう呟きながら「サルの手」をハンカチでくるみ、持ち歩くことにした。

 何に対して「仕方がない」のか僕の中でもよくわからなかったが、翌日から僕はスクールバッグに「サルの手」を忍ばせることにした。

 ハンカチの上からそれを撫でると安心する。

 

 まるで教室にある、あらゆるものが、僕の手の中にあるようで。

 ふんぞり返った先生も、くだらない事で馬鹿笑いするクラスメイトも、どいつもこいつも頭の中で馬鹿にした。

 

 

 昼休み。

 購買へパンを買いに行った時のことだ。

 

 星見先輩とあの告白していた男が楽しそうに弁当を食べていた。

 

「柚川君、大好き」

 

 先輩の甘い声が、僕の耳に届く。

 昨日消えた嫉妬の炎が僕の中でパチパチと音を立てて燃えているのがわかった。

 

 たまらず中庭へ逃げた。

 誰も居ないベンチへ座り、鞄から「サルの手」を取り出す。

 摩りながら、僕は色々想いをめぐらせる。

 

 先輩を殺してしまおうか、いや僕も死んでしまう。

 あの男を殺してしまおうか、いや僕も死んでしまう。

 

 自問自答を繰り返す。

 

 

 最終的に、僕が行き着いたのは、

 先輩に好きと言ってもらいたい。

 という事だった。

 

 僕は「サルの手」に願った。

 

「星見先輩に僕の事を好きっていってもらいたい」

 

 僕がそう言うと「サルの手」は光り輝いた。

 ポキリと音を立てて、最後の一本の指が折れ曲がる。

 

 このとき僕は、なんて素敵な願いを思いついたんだろうと思っていた。

 先輩に「好き」と言ってもらうのは一瞬だ。

 先輩の尊厳を無視するのも一瞬だ。

 母や父の様に他人の死を望めば、自分に返ってくるだろう。

 そう思った。

 僕はどこまでもビビりだったのだ。

 

 

 

 

 

「葉月くん、好き」

 

 先輩の甘い声がそう言った。

 僕はそれだけでとても幸福な気持ちになれる。




 だから、もう学校へなんて行かない。

 ここに幸せがあるのだから。

 

「葉月くん、好き」

 

 先輩は何度も繰り返す。

 

「葉月くん、好き」

 

 僕はスマホの画面を何度もタップした。

 

「葉月くん、好き」

 

 きっちり、三秒間。

 

「葉月くん、好き」

   この3秒間に恋をする。

  一瞬がループするこの永遠を。

 

 

 

おわり