貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

45綴り 君は今まで食べた食事の内容を覚えているか?

短編小説。

 

 

「いただきます」

 食事の前に手を合わせるといつも僕は二つ下の女の子、あみちゃんのことを思い出す。

 

 箸を手に取って、とんかつを口に運ぶ。噛むと衣がさくりと音をたて、肉汁が口の中に溢れた。

 肉のあまみ、うまみ。

 味わいながら咀嚼する。

 

  ざく、ざく、ざく、ざく。

 あみちゃん、あみちゃん、あみちゃん。

 あみちゃんはもっと淡白な味だった。

 あみちゃん。

 ざく、ざく。

 

 

 噛みしめながら、あみちゃんを想った。

 18歳になった今でも、僕はあみちゃんを忘れられない。

 

 

 物心ついた時からあみちゃんは僕の傍にいた。

 黒くてくりくりの目で、まつ毛が長くて、雪のように白い肌をした可愛らしい女の子だった。

 

 何をするときも一緒に居た。

 一緒の布団で眠り、絵本を読み合い、おやつの奪い合いをした。

 じゃじゃ馬で、愛らしいあみちゃん。

 

 

 だけど10歳の誕生日に僕は泣きながらあみちゃんを殺した。

 

 お母さんが怖い顔で「やりなさい」と言ったから。

 お父さんも眉間に皺を寄せて「一思いに殺してやりなさい。下手な優しさはかえって苦しむ」と言ったから。

 だから、暴れないように両手足を縛ったあみちゃんに僕は包丁を突き立てた。

 怯える目で僕を見上げる。

 僕は包丁を振り上げて、目をつむった。

 なるべく苦しまないように深く突き刺す。

 耳をつんざくあみちゃんの断末魔。

 目を開けると痙攣を繰り返すあみちゃんが虚ろな目で僕を見上げていた。

 

 血まみれになったあみちゃんをお風呂できれいに洗う。

 その後にお父さんがやってきて「後はお父さんがやるから出ていきなさい」と言った。僕は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら風呂場を出た。

 風呂場を出るとお母さんが僕をふわふわのタオルでくるんでくれる。

 

「辛いわよね。でもこれもウチのしきたりなの。こうやって皆大人になっていくのよ」

 

 

***

 

 とんかつを食べていると今でもあみちゃんを思い出す。

 のど元を肉が通るたび、体の中にしみこんでいくのを感じた。

 スッと頬に涙が伝う。

 

「変なの。泣きながら食べるなんて」

 お母さんが僕の向かいに座り、そう言った。「いただきます」を言い、そのままとんかつを頬張る。

 完全に飲み込み終えた後、お母さんはまた口を開く。

 

「だから豚に名前をつけないでっていったのよ。食べにくいでしょ」

 

 お母さんの言うことはもっともだった。

 お母さんは続ける。

 

「食べなきゃ死ぬのよ。尊さとか命の大事さとか考えるだけで胸がつっかえるわ。私たちはそんなことを教えたいんじゃないの。麻痺させるために子供のうちに死を学ばせるのよ。食べなきゃ死ぬのよ。あみちゃんみたいに。死ぬことはあみちゃんよ? わかる?」

 

 僕は答えない。

 

 その代わり、両手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 確かあみちゃんが死んだ日も、僕はこんなふうに手を合わせたっけ。