貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

47綴り かりそめ平和劇場

短編

 

47綴り かりそめ平和

 

 

 たかしくんのお話。

 たかしくんはいつものように、深夜二時にお友達とコンビニの前でお話をしていました。

 

「おい、ゆうすけ。聞いたか? こないだの法案可決されたらしいぜ」

「マジかよ。たかし。お前誰をやるんだ?」

「決まってんだろ。ウチのうぜぇババァだよ」

 

 たかしくんは18歳にも関わらず、発泡酒をぐびぐび飲むと煙草を吸って楽しそうに笑いました。

 

「ばっか! よく考えろよ! 一生に一人だけしかできねぇんだぞ?」

 

 友達のゆうすけ君もたばこの吸殻をポイと捨てると、楽しそうに笑いました。

 二人はそのあとまたコンビニに戻ると中型のカッターナイフとビニール紐を買って帰りました。

 

 

 ようこちゃんのお話。

 ようこちゃんはもがいていました。

 先日、ようこちゃんの体には赤ちゃんを授かったのですが、お付き合いしているゆうたくんにそのことを告げると首を締められてしまったからです。

 ようこちゃんは息絶え絶えに「私を殺したら二人殺したことになるのよ」と言いました。

 ゆうたくんはようこちゃんの上に座りながら「まだ人間の形をしてないからノーカンだ」と言いました。

 

 

 ゆきこちゃんのお話。

 ゆきこちゃんは小学一年生の時から六年生になるまでずっとクラスメイトにいじめられていました。

 しかしある日、ぱたりといじめがやみました。

 どうやら、この国に新しい法律ができたようでした。

 

“一生に一人だけ殺していい法律”

 

 

 

 ゆきこちゃんはいつもよりも静かな教室で皆の思考が手に取る様にわかりました。

 

“私(俺)を殺さないで”

 

 誰も彼も、自分が標的になることが嫌だったのです。

 いままでクラスで最弱だったゆきこちゃんが抵抗できる力を持った瞬間でした。

 

 

 

 国のお話。

 その国で出来た新しい法律は初めこそ殺人で溢れたものの、誰しもが気兼ねなく一人だけ殺せるということで牽制となり、じっくりと時間をかけて平和になっていきました。

 その国に威張るものや意地悪をするものはおりません。

 いつ誰に恨みを買って殺されるかわからないからです。

 その国には弱者もおりません。

 みんな心に強さといつでも誰かを殺せる安堵を得たからです。

 その国に貧困はありません。

 みんないい人になる為に、貧しい人を助けたからです。

 

 その国はとっても平和でした。

 

 

 

 穴倉のお話。

 平和な国で不満を持つ人々が居ました。

 家族や恋人を殺された人たちです。

 彼らは大事な人たちを殺されましたが、殺した人たちは法律で守られてしまいました。

 彼らは大きな声で反発することは出来ませんでした。

 いつ自分が誰かに殺されるかわからなかったからです。

 中には自分の命を顧みず復讐するものも居ましたが、復讐が復讐を生みました。

 次第に法律に賛同出来ない人々は穴倉と呼ばれる地下のシェルターへ移り住むこととなりました。

 そこでも結局国の中なので法律がないわけではありませんが、監視するものはおらず、法律に賛同していない人間の集まりでしたからいくらかマシでした。

 

 それでも穴倉の人々は救いを求めました。

 そして教祖と名乗るものが現れ、宗教ができました。

 地上のものは滑稽な穴倉を笑い。穴倉に住む人々は劣等感を覚えました。

 

 穴倉には次第にルールが出来ました。

 社会が出来ました。

 格差と貧困が生まれました。

 

 そして、ある夜、教祖が殺されました。

 誰が殺したのか、誰もわかりませんでした。

 

 

おわり