貴方を思い出すと私は哀しい

呉西しの さんが、綴ったり綴らなかったり。ノベルとか小説とか書いています。御用の方はonisisino@gmail.com まで。HP: http://onisisino.xyz

雑記 ある夜の話

雑記です

 

 

 

先日は友人Bくんから連絡が来て、飲みに誘われた。

私にとってそれは嬉しい話だ。

というのも、私は“美味しいお酒”を味わって飲みたい。

しかし、友人にそういう人はおらず、Bくんは数少ない飲み友達だった。

 

 

Bくんは私を見て開口一番に

「しのちゃん、痩せた?」

と言った。

「いや、全然。むしろ太ったよ」

 

 

Bくんというのは不思議な男だ。

多分、自分がすごく好き(ナルシストという意味)で、同じくらい女性好きだ。

自信家で、努力家でプライドが高い。

また女性からも好かれそうな容姿と体系をしている。

 

そして私に対しても、女性扱いするソレがあるけど、ところどころ男性扱いをされる。

私は男性に女性扱いされると居心地の悪さを感じることが多いので、Bくんのその切り替えは居心地のいいものだった。

まぁ、女性扱いされないことが一番うれしいけれど。

 

そういえば昔聞いた話なのだけど「痩せた?」と聞かれて喜ばない人はいないという。そういう会話術みたいなものを熟知しているのかなとも思う。

 

一方で私は他人に対して疎い。

店に入るなりBくんがそわそわするものだから、不思議に思いながらもスルーして酒を頼んだ。

我慢しきれなくなったのか「実は俺、筋トレ始めてて……」と言うBくん。

確かに前見た時よりもガッチリしているかもしれない。

というか、言われなかったら多分一生気づかない。

「へーすげー」

私はなんの面白みもない返しをした。

 

そのあと、Bくんは急ぎの用が入ってしまい想定していたよりも早い時間に解散した。

私はその日、泥酔すると決めていたので非常に残念だった。

飲み足りないという気持ちが強まって、行きつけのショットバーへと足が向かう。

 

 

歩きながら、Bくんとの会話を思い出す。

もっと聞き上手になればよかった、ああ言えばよかった、なんて自分は情けないんだろう。

誰と会っても一人で反省会をしてしまう。

感情が遅れてやってくるのだ。

 

 

もともと私は警戒心が強く、人と仲良くなりにくい。

最近では仲良くなれるように自分から頑張っているのだが、多分顔が強張っているんだろう。相手にも緊張を与えてしまう。

人前にでなくてはと思い、外に出るが気疲れして帰宅すると屍になる。思えば最近そんなことばっかりだった。

頑張る、頑張っているという割にどうしても苦手なのがパーソナルスペースを侵害されることだった。

二、三回会えばだいぶ緩和されるのだが、初対面の人にグッと近づかれるとそれだけで自分の中のすべてが崩壊してしまう。

 

汗がでて、化粧の崩れが気になって、その場にいられなくなってしまう。

(まぁ普段から化粧はぐずぐずに崩れてるんだけど)

大人になってから「星の王子さま」のキツネの言葉がわかった。

 

落ち込んだままショットバーへ向かう。

いつものカウンターに通された。

 

このショットバーはお気に入りだ。

カクテルは正統派だし(たまにスタンダードのカクテルをアレンジしているところがあって合わないことが多い)、こだわるところが嫌味じゃない。

波長が合っているんだと思う。

だが、いい店なだけあっていつも7割ほど埋まっているし、テーブル席が少なく、いつもカウンターになってしまう。

そしてこのカウンターが客と客の隙間が狭い。

(しかしこの時のパーソナルスペースは気にならない。じっと見られると胃に穴が開くが)

たまに二組のカップルに挟まれると、有益な話もあるが大体が惚気で消えてしまいたくなる。

 

その日は左におじさん、右が若い女性だった。

若い女性の隣も女性だったので友達同士で来ているのかなと思った。

 

私はいつものカクテルを注文し、飲みながらしばらくボーっとした。

馴染みの店なのでバーテンさんも私に構わないでくれる。

お酒を飲むと饒舌になることがあるので、ニコニコしてくると(自分でも自覚がある)バーテンさんから話しかけられることもある。

 

私がきつめのショートカクテルを飲み終えたところで隣の女性が席を立った。

「お手洗いはどこですか?」

その言葉で初めてきたきたんだなぁと何となく思った。

 

 

私はまだ飲み足りなかったのでバーテンさんにおすすめのウィスキーを尋ねた。

別に普段からウィスキーを飲むわけではないけど、そういう口だった。

 

「ザ・ニッカの12年です。日本で作られたウィスキーなので親しみやすいと思います」

バーテンが静かにグラスとボトルを置いた。

ロックで頼んだウィスキーは自分が想像を上回る美味しさで思わず「美味しい」と言葉が漏れる。

隣のおじさんがそれを聞いて、私に話しかけたそうなそぶりをしたがバーテンさんが止めた。

 

ありがたいことにここのバーテンさん達は

『このお客さんは静かに飲む人なんです』

という暗黙のルールで私を守ってくれる。

だから、ここへは安心して通える。

 

私はホッとして、ウィスキーを楽しんだ。

甘い香り、喉が熱くなる刺激、深い味わい。

鼻腔から抜ける華やかなアルコールの香りが、贅沢な嗜好品を味わっていると実感できる。

 

やっぱりお酒は一人で楽しむのがいいかもしれない。

誰と飲んでもドギマギしてしまう。

話す相手がいなくてもお酒は美味しいし、楽しい。

 

私がウィスキーを楽しんでいると

「このお酒なんていうんですか?」

と話しかけられた。

 

隣の若い女性だった。

 

しかもバーテンではなく私に話しかけられていた。

彼女の目が私をジッと見つめていて、一気に汗が出た。

私のパーソナルスペースセンサーが危険信号を発し始める。

バーテンさんも突然のことで驚いていた。これは……止めるべきなのかという顔を

 

「えっと……、私の目の前にあるボトルのウィスキーですよ」

 

お酒が結構入っていたのが幸いだった。

ウィスキーの度数は43%。氷で薄まっているとはいえ、酔いが回っていた。

いつものドモり口調が滑らかになっているのを感じた。語尾はゆるく、口角が自然と上がっているのがわかる。

 

「美味しそうに飲まれるから気になって……。私もそれ頼もうかな~」

メニューに視線を移し、私は胸を撫でおろした。

が、彼女の目の前に置かれたショートグラスが目に入る。

 

多分、私より年齢が若い。

ショートグラスは基本的に度数高いのに、同じウィスキーを飲んで大丈夫だろうか?

 

「あの、このウィスキー美味しいですけど度数きついですよ? 大丈夫ですか?」

焦りから話しかけてしまった。

ほら、頼んで飲めなかったらもったいないし……。

この女の子が倒れても困るし……。

 

「そうなんですか? どうしようかな~。私、ショットバー初めてなんですよ」

彼女の言葉に、さらに不安にさせられた。

 

 「よかったら私の、少し飲みます? あ、口つけてないところで! 嫌じゃなかったらですけど!」

気がついたら口走っていた。

っていうか、嫌だろ……。知らないやつの酒とか嫌だろ……。

早めの後悔で死にそうだった。

 

しかし、彼女は「ホントですかー? 飲みます!」と言って私のグラスを手に取って飲んでしまった。

 

「美味しい~。私もコレくださいー」

 

私のぐるぐると回る焦りや、ドロドロの自己嫌悪をよそに彼女は同じものを頼んでしまった……。

しかも、ぐいぐい話しかけてくる。

私は内心タジタジだったが、酔いが手伝って何とか会話を成立させていた。

バーテンさん一同も一瞬焦っていたが、次第に興味が湧いたのか数名がジリジリと近づき聞き耳を立てていた。

 

正直、私は変な客だと思う。

フッと一人であらわれて、酒を静かに飲む。

誰とも話さず、時に耳栓をしてメモを取り始めたりする。(大体プロットを書いている)

話しかけてもすぐに会話を終わらせられる。

放置するのが一番と思われているだろう。

 

それが子犬のように愛くるしい年下の女性に話しかけられ、ちゃんと会話をしている。(実際は必死に受け身)

 

気がつくと店は忙しいのに三名くらいのバーテンさんが立っていた。

いや、私の前に三人もいらないだろうと思いながら上記のことを勝手に思っていた。

 

彼女は愛くるしかった。

彼氏はおらず、社会人一年目。医療関係に務める。

休みは決まっておらず、次第に友達とも疎遠になったという。

それに最近一人暮らしを始めたらしい。

今日は一人でお店に来たと言う。

ショートカットで笑顔が可愛い女性が、明るくそんな話をした。

 

「美味しそうにお酒を飲んでいたので、勇気をだして話しかけてみました!」

と言われたとき、可愛いと心から思った。

 

だけど、私はその場の会話を途絶えさせないようにという気持ちばかりが先行していた。

 

彼女の話をたくさん聞いた。

楽しいと思った。

でも、終電の時間がきて……私は席を立った。

 

名前とか連絡先とか聞けばよかったのかもしれない。

彼女も『聞きたそう』な表情をしていた。

そのころには私も彼女の目をみれるようになっていた。

だけど、私には勇気がなかった。

 

「じゃあ、お先に帰ります。気を付けて帰ってくださいね」

 

そういうだけで精一杯だった。

 

 

翌日、後悔した。

彼女は知らない人に話しかけるほど寂しかったのかもしれない。

いろいろなことを考えると落ち込んでしまった。

 

いつも感情が遅れてやってくる。

反省会ばかりしている。